第3話 気持ちと仕事

■職場での涙……

花咲「なんで、私ばっかり……うっ……うっ……」
音無「あ、その! その! 実直さ〜ん!」

 あらあら、音無さんとアシスタントの花咲さんが何やらトラブルのようですね。実直マネジャーの出番ですよ!

実直「どうしたのかな。何があったか説明してくれないか」

音無「あ、あの……ぼ、僕はその……見積もりを……」
花咲「音無さんは悪くないんです。私が悪いんです……」

 詳しく聞くと、花咲さんの業務が詰まっている状態で、音無さんが見積もりを依頼したところ、花咲さんが泣きだしてしまったというのが真相のようです。
普段は笑顔の花咲さん、いったいどうしたんでしょうね。

実直「とりあえず少し落ち着こう……。あとで個別に話を聞くよ」

実直マネジャー、マネジャーとして合格の行動!
みんなの前で話を聞くのはもちろんだめですし、2人から話を聞くよりも1人ずつから話を聞くほうが感情面も含めて合理的です。
みんなの前で問い詰めるのは、本人たちの評価やメンタル面だけでなく実直マネジャーの評価も下がりますしね!

■人間は機械ではない

実直「はぁ……」
野口「実直マネジャーどうでした?」
実直「音無さんは見積もりを頼んだだけでしたし、花咲さんは『自分が悪いんです』の一点張りでしたね……」
野口「他には何かなかったんですか?」
実直「花咲さんは先週末に親友とトラブルがあって、ちょっと落ち込んでいるということを話してくれました。話をきちんとしてくれるのはありがたいんですけど、仕事に持ち込まないで欲しいんですよね」
野口「うーん……それってヒントじゃないんですか? 実直マネジャー、よーく考えてみてください」
実直「え? ……あ、わかりましたよ!」

 実直マネジャー、野口がいつも言っていることを思い出してくれたようです。

実直「トラブルがあるところ問題アリ! ですね」

 実直マネジャー、さっそく花咲さんに話を聞いているようです。

 花咲さんの感情面が不安定になっていたところに、音無さんの見積もり依頼が4件、午前中の業務ペースが乱れてしまい、涙という形であらわれたのが今回のトラブルの全容だったようです。
普段の花咲さんであったなら、今回のことも笑顔で引き受け、そつなくこなしていたでしょう。
問題は「花咲さんの感情面が不安定だった」ではありません。
花咲さんの感情が不安定だったことにより、初めて表に出たトラブルですね。人間は機械ではありません。それゆえ、感情が出てくることがしばしばあります。
「普段はニコニコしている花咲さんが」というのが、もっとも重要ですね。

■問題点を解決するのが管理職の仕事

 話を戻しましょう。
トラブルに問題アリ---問題があるからトラブルになる、つまり問題がなくなればトラブルは解消するんですよね。
トラブルにはデメリットが多いですが、少ないですがメリットもあります。

  • 問題点の表面化
  • 解決によるリレーションの強化

マネジメント目線で考えるとこれら2つが大きなメリットですね。
当たり前ですが、問題点が表面化するのは概ねトラブル発生時です。自分たちは何を解決すれば良いのかを明確に指し示してくれるハプニングであり、イベントでもあります。

一歩下がって考えると、

  • 普段はニコニコとそつなくこなす花咲さん
  • そんな花咲さんが涙を見せる
  • そつなくこなす花咲さんは問題点が非常に見えにくい
  • 頑張ってこなしてしまう人は、感情面が引き金になって初めて表面化する

では何が問題なのでしょうか?

実直「花咲さんの業務見直しですよね。頑張っている人ほど、限界まで仕事を引き受けますからね」
野口「実直マネジャー冴えてますね。その通りですよ!」
実直「僕は自分の範囲を理解して、その範疇で仕事をする人間ですのでなかなか理解出来ませんが、マネジャーになって理解出来ました」
野口「実直マネジャーは意外とドライですからね。本当の意味でのマイペースというか……」
実直「それで誤解されるんですけどね……」
野口「知ってます……」

話が脱線しそうになりましたが、今回、花咲さんの問題点として表面化したのは、担当業務の量ですね。
これは要チェックです。

そして、今回の部署内のトラブルは、実直マネジャーのようなチームを組んだばかりの管理職には大きなチャンスでもあります。

実直「一緒に問題を解決することによるグループメンバーとのリレーションの構築、ですか?」
野口「その通り!」

今日の実直マネジャー、リーダーっぽいですね。
お客様にまだ迷惑をかける段階ではないトラブルは、チーム内のリレーションを構築するのに最適のチャンスです。
誰にとってもマイナスではない状態で、みんなにプラスになる結果を作れるのはチャンスです。

では、実直マネジャーには花咲さんの業務改善に手を付けてもらいましょう!

共有することでわかること

実直「本日、木曜の定例ミーティングですが、今回は各自の業務を見直そうと思います」

各自の進行状況を含めた業務の見直しをする実直マネジャー。
書きだしてみると、みんなが頑張れば頑張るほど花咲さんの仕事は増していくのがわかりますね。
今月は音無さんも含めて、営業メンバーが絶好調! そうなってくるとアシスタントの花咲さんの業務も一気に増えますよね。嬉しい悲鳴なのですが……。

実直「これじゃ花咲さんもパンクしちゃうのも仕方ないか……うーん、困ったな〜」
音無「あ、あの、実は、僕と張切くんで、求人広告の締め切りベースで案件をまとめています……。少しでも花咲さんを楽にできたらって思いまして……」
張切「そうッスよ! 最近、花咲さん付箋紙をたくさん貼っているのを見てますし、少しでも力になりたいッス!」
花咲「音無さん……張切さん……ありがとうございます」

おやおや、なんだかんだで気遣いのあるメンバーですね。
たしかにその方が、進行管理も含めて花咲さんには優しいですね。ナイス! 音無さん&張切さん!

天辺「あのさぁ、みんなその程度なの? オレはだいぶ前からそうしてるし、入稿原稿もなるべく早めに集めるようにしてるぜ?」
花咲「いつもすごく助かっています! ありがとうございます!」
実直「さすがは天辺、やるな」
天辺「オレくらいになると当然だけどな」

天辺さんもさすがですね。皮肉交じりなのは本人のキャラですが、非常に合理的です。
今回のミーティングは大成功ですね。
各自の業務も共有できましたし、お互いをフォローする気遣いが目に見えたことで結束が深まったようです。
今回の件に関しても、締め切りには少し日があるようですし、もう少し余裕をもった進行で良いこともわかりました。

■仕方ない部分と仕事の部分

ミーティング終了後、花咲さんにきちんと声かけに向かう実直マネジャー、だいぶとマネジャーらしくなってきたようですね。

実直「意外とみんな気にかけていたようで、僕も少しびっくりしたよ」
花咲「すごくありがたいです。私が原因なのに、みんなでフォローしてくれて」
実直「人間だから感情が出るのは仕方ないからね、僕だってそうだし」
花咲「そうなんですか? 意外です。あんまりそういう波を感じませんし」
実直「僕だってイマイチな時もあるんだよ。でも、僕がイマイチなことって、みんなは関係ないし、もちろんお客様にも関係ないんだよね。だからこそ、なるべく割り切るようにしてるよ」
花咲「割り切れるのが大人ですよね……私は……」 実直「あー、そういう意味じゃなくてゆっくりでいいんだよ。ゆっくり割り切っていければいいし、今回のように割り切れなかったから問題点が見えたこともあるしね」
花咲「すみません……」
実直「責めているわけじゃないよ。僕にもだし、もっとみんなに相談していくようにしていこう。仕事はもっと楽にしていくように考えたらいいんだよ」
花咲「ありがとうございます!」
実直「みんなで頑張っていこうね」
花咲「はいっ」

 実直マネジャー、だんだんと言葉で説明することが上手になっているようです。
機嫌が良くないときというのは誰にでもあります。でも、それって、同僚やお客様には関係ないんですよね。
自身の機嫌で職場の雰囲気が変わる……そういうマネジャーは仕事ができても、部下が育たないことが多いです。
特にぐいぐい引っ張るタイプではない実直マネジャーは、相談しやすい環境をいかに作っていくか、それを中心にしたほうが、リレーションを築いていける良いチームになっていくと思います。
背中で語る上司になるにはまだ早いですし、何より若いですしね。

 しかし、今日の実直マネジャーは少しかっこ良すぎですね。
ずっとこの調子であってほしいところですね。

 そして、翌月に入り……。
天辺「おい音無!」
音無「ハ、ハイ……! あ、天辺さん、なな、何か」
天辺「何かじゃねえよ! おまえは計算もできねえのか!!」

天辺さんが音無さんを怒鳴りつけているようです!
実直マネジャー、早く仲裁しないとチームに亀裂が入りますよ!

実直「は、はい。とりあえず行ってきます!」

さてさて、どうなるのでしょうか。
第4話へ続く……