第7話 部下が動くようにするのも管理職の仕事

■管理職の悩み

実直「野口先生……ご相談が……」

一ヶ月前の野球観戦の後とは、うってかわってげっそりした実直マネジャー……、一体何が実直マネジャーの身に起こったのでしょうか?

野口「どうしたんですか? 青い顔して」
実直「実は大学時代の親友から相談されまして……」

 実直マネジャーの親友、堅井さんは実直マネジャーの同い年。製造向け機器メーカー勤務で実直マネジャーと同時期に管理職になったそうです。
先週末、久々に飲みに行った時に、実直マネジャーは相談を受けたそうですが……。

実直「それがですね、僕、うまく友人にアドバイスできなかったんですよ」

野口「どんな内容だったんですか?」
実直「言うことを聞かない部下がいて、その指導に困っているという話でした。僕も同じ管理職ですが、チームのメンバーは個性的なだけで、言うことを聞かないということはありませんし」

野口「そうですね。個性豊かなメンバーですが、なんだかんだでリレーションがとれているとは思います」

野口「少し詳しく話をして良いでしょうか?」

お互い管理職ということで、情報交換しようということで久々に飲みに行った実直マネジャーと堅井さんの2人。

堅井「実はさ、ちょっと実直に相談してくて今日は誘ったんだよ」
実直「え? なんかあったの」

堅井「実は、俺の部下でたまになんだが、指示に従わないのがいるんだよ」
実直「そうなんだ」

堅井「こないだ取引先でプレゼンしたときも、指示したことをやっていなかったし。それを指摘しても『自分は間違っていません』だしなー」
実直「うーん。指導はしたの?」

堅井「ガツンと言ってみたり、優しく言ってみたんだけどな〜」
実直「そうなんだ……」

■プレゼン資料の追加指示に従わない部下

 実直マネジャーは、そこで「自分のチームはうまく機能している」なんてことを言えるわけもなく、ただただ堅井さんの話しを聞いていたそうです。
細かい話もわかりましたし、少しまとめてみましょう!

●堅井さんの相談事例

1.主要人物
堅井さん……主に工場向け製造機器を製造するメーカー勤務。本年度より営業マネジャー。実直マネジャーとは大学時代からの親友。
部下A……本年度より入社の新人。まれに自分の判断を優先し、指示に従わない。
2. 取引先情報
Z社……準大手の老舗精密機器メーカー。現場にフォーカスした企業理念を持ち、その理念通りの現場主義の企業。
3. 初期状況
堅井さんが、部下AとZ社へ訪問する際、プレゼン資料を事前チェック。
その際に「××株式会社の経営理念を絡めたページを最後に持ってきておいて」と指示を含め、何点か修正指示を行う。
4. 経過
当日のプレゼン資料には、企業理念を絡めたページのみ未修正。
プレゼン中、その部分には特に触れられることもなく終了。
帰りの車中で「なぜ、指示に従わなかったのか?」と訊ねると、「必要ないと判断しました。最後の押しは、聞かれれば私が直接口頭で説明するつもりでした」という返事。
「判断するのは君じゃない」と伝えても、自分の判断を優先する部下。何度か説明しても指示に従わない部分がある。
5. 結果
プレゼンの結果は持ち越し。
6. 堅井さんの分析
・感触的には後ひと押しというのが感じられた。
・歴史のある××株式会社は、企業理念である現場主義を長く貫いている取引先である。
・上記を考慮すると、アピールすべき部分は、今回ご提案する製品が現場負担を軽減する機器であるということ、つまり私の指示ではなかったのか。
7. 相談の概要
何とかして伝える方法はないのかということを含め、今後、この部下への指導のあり方を実直マネジャーに相談した。

野口「……という感じですね」
実直「そうです。なぜですかね……」

野口「そうですね。ヒントは、今、実直マネジャーが野口に相談している……これですよ」
実直「え?」

野口「実直マネジャーは、なぜ、野口に相談したんですか?」
実直「それは、堅井がつらそうにしているし、なんとか手伝いがしたいと思っているからですね」

野口「それですよ」

■人の行動には動機がある

 実直マネジャーは、堅井さんの手助けなれば、という理由で野口に相談しています。
そうです、人の行動には何かしらの動機が存在しているのです。

 指示に従わない=行動しない、これは行動に至る動機がないと言えるのではないでしょうか?
だとしたら、この問題を解決するには、部下に動機を与えることではないですか?
そして、部下に指示を出し、その指示を遂行する動機を与えるのも管理職の仕事です。

実直「たしかにそうですね」

 今回はプレゼンですね。
堅井さんの営業指導のポイントをまとめましょう。

1. 指示に対する動機付け
ここでは、なぜ経営理念に絡める必要があるのかをきっちり部下に説明し、現場主義の経営理念と自社商品の現場への相性を深くアピールする指示を出すことが必要です。
2.プレゼン資料の意味
プレゼン資料は、その場でのみ使用されるものではなく、次回以降の打ち合わせ・問い合わせにも役立ちます。
例えば、「2ページ目の〇〇について、詳しく説明してほしいのですが」など、プレゼン後の問い合わせを受けた時などに、前提条件を共有することで相手と理解度を揃え、円滑な意思疎通やコミュニケーションを取ることが可能になります。

またその場で説明すると意気込むのはいいのですが、その場にいない人にはどうするのでしょうか?
稟議書を上げる際、上長や決裁権を持つ人で役職者にプッシュする材料がプレゼン資料です。
そう考えると、その場で説明するという意気込みも大事ですが、しっかり作り込むことも大事だと理解できるはずです。

実直「ありがとうございます。これを堅井に伝えますよ」

野口「まだ、大事なことがあるんですよ」

■動機付けはモチベーション維持、リレーション構築に効果

 自分の行動の意味をしっかり理解して行動するのと、言われたまま、理由もわからず行動するのでは、自分自身の心に作用する負荷が大きく変わります。 これに似た話が、第5話でありましたね。そうです、未来の話です。
未来の目標の設定とそれに向かって行動する……。これって、動機付けですよね。
遠い目的への動機付けが未来の目標であり、近い目的への動機付けが今回のケースです。
自分の部下へポジティブな活動へ導くのもマネジャーの仕事です。

実直「またひとつ勉強になりました」

野口「当たり前ですが、動機付けの説明を丁寧に行うことで、部下とのリレーションも構築できるのはわかりますよね」

実直「繰り返しの指導はリレーション構築に繋がりますね。部下の成長にも繋がりますし!」

野口「合格です! うまく伝えてくださいね」
実直「メモしましたし、バッチリですよ!」

 さっそく電話で伝えているようですね。
身振り手振りを加えて一生懸命説明しているようです。実直マネジャー、普段は結構落ち着いた感じですが、友達の前だとああいう感じなんですね。

実直「無事、伝えることができましたよ!」

野口「良かったですね」
実直「いままで、仕事のスタンスとして『上司は背中で語る』とか思っていたらしいんですが、これを機会に改めるって言っていました」

野口「珍しいタイプだったんですね」
実直「何かに影響されていたんだと思います……。とりあえず、僕なりのアドバイスができてよかったです。あとは、マネジャーとしての彼の仕事ですし」

……そして、翌日。

遠くから実直マネジャーの声が聞こえますね。元気を取り戻して張り切っているようです。

実直「花咲さん、一つお願いがあるんだけどいいかな?」

花咲「はい、何でしょ」
実直「今から送るデータを冊子にして10部欲しいんだ。このデータは、明日の商談でお客様の関連部署を含めた打ち合わせに使用するものなんだ」
花咲「了解ですっ」
実直「その打ち合わせでは、WEB求人の重要性を再確認していただくために、もう少し詳しいデータをそろえて……」

花咲「わ、わかりましたからっ! 朝から変ですよ〜! なんでもかんでも説明しなくても、私は大丈夫です!」
実直「ご、ごめん……」

花咲「もう! 元気になってよかったですけど、回りくどいのはだめです!」
実直「あ、あれ……おかしいな……」

花咲「なにブツブツ言ってるんですか? 早くデータ送ってくださいね」

実直マネジャー、さっそく動機付けを実行していたのはいいですが、花咲さんに叱られてしまいましたね。
しかししかし、友達の相談をしっかり身につけるというしたたかさも、また長所です。

 一ヶ月後……

 なにやら、深刻な顔で実直マネジャーと天辺さん、音無さんが打ち合わせていますね。 どうしたんでしょう。

天辺「……そうそう、資料を作る時は、いろんな分岐の可能性を考えて用意するんだ」
音無「はは、はい!」
実直「そうだね、天辺の言うとおり、いろんなケースを想定していると楽だよ」

音無「そそそそそうですね」

 どうやら社内プレゼン大会の打ち合わせですね。
あの様子だと、音無さんがプレゼン大会に出場するようです。
課を代表して出場ということもあり、打ち合わせなのにすごく緊張している音無さん、大丈夫でしょうか……。
少し不安です。
(8話に続く……)