第8話 プレゼンターの心構え

■社内プレゼン大会迫る

 なにやら、深刻な顔で実直マネジャーと天辺さん、音無さんが打ち合わせていますね。
どうしたんでしょう。

天辺「……そうそう、資料を作る時は、お客様の質問の内容に合わせて、いろんなの可能性を考えた内容で用意するんだ」
音無「はは、はい!」
実直「そうだね、天辺の言うとおり、いろんなケースを想定すると楽だよ」

音無「そそそそそうですね」

 先日、告知された社内プレゼンの打ち合わせのようですね。
すごく緊張しているのがよくわかる打ち合わせですが……。

実直「野口先生、こんにちは!」

野口「こんにちは! プレゼン大会の打ち合わせですね」
実直「そうです。今回の受注は額も額ですし、チームとしても取りに行こうという感じですよ」

野口「誰がプレゼン大会に参加するか決まったんですか?」

実直「音無さんでほぼ決まりです。あとは、僕と天辺がサポートに回るという感じですね」

野口「いい感じですね!」

実直「いい機会ですし、プレゼンというものをじっくりみんなで考えようと思いまして、音無さんだけなく、張切さん、花咲さんも交えてミーティングを重ねています」

 今回の社内プレゼン大会、実直マネジャーの所属する「株式会社 アド・おまかせ・エージェンシー」の多々木取締役のルートで、ディフューザー大手の「ナチュラルウインド株式会社」から大量の人員採用プロジェクトの依頼があったのがきっかけです。
依頼を持ってきた多々木取締役が、どの営業課に今回の人員採用プロジェクトを任せるのか……それを決めるためのプレゼン大会が今回の社内プレゼン大会です。
もちろん、優勝した課が人員採用プロジェクトを担当することになりますので、経験だけではなく数字的な結果もついてきますし、各営業課も気合充分です。

実直「野口先生に相談なんですが、プレゼンについて指導する際のポイントを教えていただければ」

野口「ポイントというより、プレゼンはヒアリングですよ。本当にこれがキモです!」

実直「あ、それ、昨年のプレゼン研修で野口先生から聞きました!」

野口「そうそう! そのヒアリング!」

■プレゼンとはヒアリングといえる

 プレゼンテーションはヒアリング。
これは、ユーザーの求めるものをプレゼンターが把握するために必要なことです。
お客様がどのような要望を持っているのかとういう基本的なものから、キーマンが誰なのか、予算は……などなど、様々なことを聞くことができます。
聞くことから答えが見つける=プレゼン内容が決まるということですね。

  ではでは、今回のプレゼン大会のポイントはどこでつかむべきでしょうか?

実直「そうですね。キーマンは多々木取締役ですし、多々木取締役にヒアリングするしかないですね」
野口「その通り! せっかくのチャンスですし、チーム全体でよ〜くヒアリングしてくださいね」

実直「たしかにそうですね。ちょうどこのあと、多々木取締役との今回の件で打ち合わせがありますし、さっそく行ってきます!」
野口「いってらっしゃい!」

  プレゼン大会の前に”何を求めているか”を知ることが大事です。それを知るための手段がヒアリングです。
営業3課が提案するものは何が正解なのか? そのヒントは全てお客様、今回は多々木取締役が持っていると言えるのではないでしょうか?
では、ヒアリングの様子を少しのぞいてみましょうか……。

多々木「みんなお疲れ様。今回のプロジェクトは、大きな案件だし、このプレゼン大会もきっといい経験になるよ」
実直「ありがとうございます。お時間をいただきましたので、営業3課としていろいろとご質問いたします」

多々木「あんまりかしこまらなくていいよ。僕に答えられることなら、なんでも答えるしね」 実直「よろしくお願いします」

   実直マネジャー、手堅く色々と聞いていますね。

1. なぜ、大量のアルバイト採用になったのか?
商品の案内を専門とするチームを新たに作ることになったことから
2. どんな人材が欲しいのか?
笑顔で人と接することができる方、基本的な礼儀・マナーが身に付いている方とのこと
3. どんな仕事内容なのか?
担当エリアの商店や事務所を徒歩や自転車で回り、商品の案内をPRするという業務
4. どんな商品をPRするのか?
芳香剤、アロマの香りを出す店舗用ディフューザー。店舗用ということで商業用のものとなり、カートリッジ交換・定期点検サポート付きの商品
5. 待遇は?
時給1200円+交通費実費支給、土日祝勤務は時給が100円UP、勤務時間・勤務曜日は相談可
6. 多々木取締役と発注者の関係
大学時代の剣道サークルの仲間。どっちが強かったかで未だに言い合いになるぐらいの中の良さ
7. 今回のゴール設定は
1ヶ月以内にアルバイトスタッフ(学生含む)50名採用

 営業3課として、このプレゼン大会ですべきことの根幹は決まりそうですね。
取締役の個人的な繋がりまで、踏み込んで聞けたことも良かったと思います。

実直「最後に少し、個人的な質問なのですが、よろしいでしょうか?」

多々木「どうぞ」

実直「今回のプレゼン大会、どうして社内の営業課全てが対象なんですか?」

多々木「それは、僕自身が若い時にチャンスをもらったからかな。僕も営業畑出身で、叩き上げの人間だし、今回のプロジェクトは若手にチャンスを与えたいと思って、営業課全部に声をかけさせてもらいました」
実直「そうなんですか……。ありがとうございます!」

多々木「では、がんばって。プレゼン大会を楽しみにしてるよ」
実直「そうなんですか……。ありがとうございます!」

野口「実直マネジャーは、なぜ、野口に相談したんですか?」
実直「今日はありがとうございました」

 取締役は営業マンから叩き上げで取締役になった人だったんですね。
営業3課を好意的に見ているようですし、これは実直マネジャーを頑張らないといけません!

■提案に営業3課らしさを

 さっそくミーティングをしているようですね。
取締役の熱い想いを聞いて、みんな燃えているようです!

花咲「実直さん! 私、多々木さんって怖い人かと思っていたんですが、すっごい素敵な方でしたね」
実直「そうだね。僕もびっくりしたよ」
張切「あそこまで期待してくれてるんだし、期待に答えるしかないッスよ!」
音無「ぼ、僕、がんばります!」
天辺「音無は、もうちょいオレとマネジャーが鍛えないとダメだけどな!」
実直「あははは、頑張っていこうね」

 いい雰囲気でミーティングができそうですね。
詳しい話は明日にでも、マネジャーから聞きましょうか。

……翌日。

野口「おはよう! 実直マネジャー、昨日ミーティングの話を聞かせてください」
実直「はい! 実は……」

 営業3課としては、大学生協での告知を強化していくことになったとのこと。
花咲さんが「多々木さんとクライアントの出会いは大学でしょ、それだったら大学生協どうかな?」というのがきっかけになって、大学生協にスタッフのイメージを等身大パネルで設置などなど、商品の袋入れチラシなどを強化し、WEB求人、新聞折込を提案することなったようです。

実直「大学生協は僕もおもしろいなと思いました。学生が確実に集まりますし、今回の求人像にもあいますし」
野口「たしかにそうですね。時間の都合もつきやすいと思いますし」
実直「授業の合間にできますし、サークルを通じての口コミにも期待できます」
野口「野口的にもおもしろいと思います。らしさが出ていていいですね」
花咲「野口先生もそう思うでしょ! 私すごい!」
実直「花咲さん、ありがとうね」
花咲「いえいえ、どういたしまして。お昼はデザート付きがいいですわよ」
実直「花咲さん、厳しいな〜」
野口「ゴホン! とりあえずは方向性が決まったということで、あとは動き出すだけですね」
実直「はい! 大学生協へのアプローチは、音無さんと張切さんのチームで動いてもらいます」
野口「彼らは2人で今回の件の打ち合わせもしていましたし、確かにいいですね!」
実直「発表のサブには張切さんで考えています」
野口「いいですね!」

 いよいよ本格的に動き出した営業3課。
あとは、プレゼンの前準備!

■プレゼンターの心構え

 1週間後、資料も着々と準備が揃い、プレゼンに向けて一致団結の営業3課。
チーム内での模擬プレゼンに向けての準備を行っているようです。

実直「野口先生! こんにちは!」
野口「こんにちは! 準備も進んでいますね」
実直「ええ。音無さんと張切さんの組み合わせが意外に良くて、いい感じに進んでいます」
野口「良かったですね。あとは模擬プレゼンした後に、最終調整ですか?」
実直「はい。社内プレゼン大会まであと10日ですし……。そこで少しご相談なのですが、マネジャーとして、私にできることはもうないですか?」
野口「うーん。そうですね。心構えの伝授ぐらいですか……」
実直「それお願いします!」
野口「は、はい」

 プレゼンターの心構え……といわれて、何が思いつきますか?
実直マネジャーは「緊張しない、リラックス」と言っていました。半分正解。
もっと基本に戻って欲しいんですよね、野口的には!

  1. 相手に伝えることを意識すること、そして相手に見えるアクションをすること
  2. 相手に不快感を与えない態度や装い
  3. 自分だけでなく、相手にリラックスしてもらう

この3つです

1.相手に伝えることを意識することと相手に見えるアクションをすること
意外と見失っている人が多いのですが、発表することがメインになって、伝えることがサブになっている人を多く見ます。
素晴らしい資料、素晴らしい流れ……大事ですが、相手に伝えること、伝わることがプレゼンの本質です。
そして、相手が伝わりやすいアクション。楽しい内容を伝えるときは笑顔に、時には身振り手振りを交えると、相手に伝わりやすいです。

2.相手に不快感を与えない態度や装い
美男美女である必要はありません。
相手にフィルターを作らない態度や装いが必要です。ネガティブなイメージはそれだけで、フィルターになり、プレゼン内容の足を引っ張ることになります。

3.自分だけでなく、相手にリラックスしてもらう
これを見落とす人がかなり多くいます。
自分だけがリラックスしても仕方ないんです。相手がリラックスして耳を傾ける状態にすること、それが伝えることの最大の助けになります。
音楽を聞くとき、リラックスするほうがより深く体に浸透する気がしませんか?
それと同じことをプレゼンで作り出すことを心がけましょう。

実直「僕は自分だけがリラックスすることを考えてましたよ」
野口「マイペースな実直マネジャーらしいですね」
実直「ありがとうございました。さっそく明日にでも音無さんに指導します」
野口「明日ですか? 今日、音無さんはどうしたんですか?」
実直「熱っぽいらしく、今日は休んでるんですよ」
野口「それは心配ですね」
花咲「実直さん! 大変です!」
実直「花咲さんどうしたの? えらく慌てて」
花咲「……音無さん、インフルエンザで1週間の出社停止です」
実直「え!! インフルエンザだって!」
花咲「はい!」

 早く治そうと思って病院で診察を受けたところ、まさかのインフルエンザ……。
音無さん、今回のプレゼン大会に力を入れていましたし、すごく残念がっていたようです。

実直「うーん……」
張切「音無さん、インフルエンザなんスか……一緒に頑張ってただけに僕も残念ッス」
実直「そのことなんだけど、音無さんの希望で張切さんに引き継いで欲しいんだ」
張切「え! 僕ッスか! 唐突すぎないッスか?」
実直「音無さんとチームだったし、僕もうちのチームでは張切さんが一番適任だとは思うんだけど、嫌かな?」
張切「いやじゃないッス! でも、うーん……」
実直「嫌ならいいんだよ。今回はうちのチームは降りよう。次があるさ」
張切「……やるッス。音無さんの頑張りは僕も知ってるんで」
実直「ありがとう。サポートは僕と天辺がきっちりするよ」

張切「了解ッス」

 いつもは豪快に引き受けそうな張切さん、今日は少し様子が違いましたね。
うーん、何事もなければ良いのですか……。

(9話に続く……)