第9話 能動的なマネジャーになろう!

■相談がない=安心ではない

 音無さんから張切さんへプレゼン大会のプレゼンターをバトンタッチして2日、どうなっているんでしょうか?
いつも張切さんらしくない感じでしたので、心配といえば心配です。

野口「張切さんへのプレゼンター移行はスムーズに行っているんですか?」

実直「はい。今のところ何の連絡もありませんし、資料に関しても、僕と天辺できっちりフォローしていますよ」

野口「そうなんですか。あ、張切さんが青い顔して歩いてきますよ! ほら、声かけて!」

実直「はい。では、行ってきます」

 声をかけていますね〜! こういう部分で躊躇しないのは、本当にマネジャー向きだと思います!
では、少し会話を聞いてみましょうか。

実直「張切さん、どう? 模擬プレゼンまであと4日だね」

張切「そうッスね」

実直「いつもの張切さんを出せばいいと思ってるよ。がんばろうね」

張切「……できるだけ、頑張るッス」

 野口的に何かひっかかる感じですね。
たしかに実直マネジャーの言う通り、いつも通りの張切さんだと問題ないように思います。
しかし、この張切さん、いつもの元気な張り切りさんじゃないですよね。
実直マネジャー的にはどうなんでしょうか?

野口「張切さん大丈夫ですか? ちょっと元気無いですよね?」
実直「今のところは大丈夫ではないですかね?」

野口「野口的には違和感を感じますよ!」

実直「そこまでおっしゃるなら少し考えます。張切さんとはリレーションをとれていると思いますし、何かあったら相談してきそうだと思うんですけどね」

野口「たしかにそうなんですけど、なんか引っかかるんですよね」

 そして、翌日……。

花咲「実直さん、おはようございます。今日、張切さん、体調不良でお休みだそうです」
実直「おはよう、花咲さん。体調不良とだけ連絡あったの?」

花咲「そうです。明日は出勤するって言ってました」
実直「うーん」

 これは、張切さんになにかあったと考えていいと思います……。
相談がないから、思う通りに進んでいると考えるのは、マネジャーとしてはまだまだ甘いですね。
今回は、言い出したくても言い出せなかったのではないかと思います。
相談を待っているのではなく、相談事をマネジャーの方から探り、形にして解決する……これも、相談なんですよね。

野口「というわけで、今日は昼から張切さんのところへ寄るように!」
実直「あ! おはようございます、野口先生」

花咲「野口先生、神出鬼没ですね! 実直さんの予定に入れておきます!」

■動機をきちんと共有する

 模擬プレゼンまで、残り2日。
張切さんの部屋を訪問した実直マネジャーはどうなったんでしょうか?
営業3課をのぞいてみると、笑顔の張切さんが外出するようですね。

張切「あ、野口先生おはようございます!」
野口「おはよう、張切さん! いってらっしゃい!」
張切「はい! 頑張って行ってくるッス!」

一気にいつも通りですね。
何が問題だったのかを、実直マネジャーに聞いてみますか!

野口「花咲さん! 実直マネジャーはどこですか?」
花咲「えーっと、天辺さんとミーティングですね。もう少しで出てくると思います!」
野口「ありがとう。最近、仲良いのかな? あの2人」
花咲「そうですね。一定の距離感はありますけど、なんだかんだいって遠慮のない間柄ですので、いいと思います」
野口「ほー。うまくお互い無い部分を補完しあっている感じなんですかね……」
花咲「あ! 実直さん出てきましたよ!」

   天辺さんと社内プレゼン大会の資料の打ち合わせだったようですね。
では、早速張切さんの話を聞いてみましょう。

野口「実直マネジャー、昨日はどうだったんですか?」
実直「野口先生の言う通りでした。僕もマネジャーとしては、まだまだですね」

 実直マネジャー、差し入れの牛丼を片手に張切さんの部屋に行ったところ、張切さんは風邪でも何でもなく、ただ憔悴している様子だったそうです。

実直「張切さん、お昼多分まだじゃないかな? 牛丼を買ってきたんだ。一緒に食べよう」

張切「はい……」
実直「明日は出社できそうかな」

張切「……大丈夫ッス」
実直「良かった。今日、部屋まできたのは、張切さんが僕に言ってないことがあるんじゃないかって思ってね」

張切「……」
実直「言いにくいのは承知してるけど、とりあえず、話してくれないかな。決して悪いようにはしない」

張切「……はい。でも、とりあえず先に牛丼いいッスか」
実直「たしかに!」

   張切さんが相談しようと思っていて、躊躇していたことは、仕事というより張切さんの性格の部分だったそうです。

 学生時代は体育会系でならした張切さん。
先輩にも好かれる性格だった彼は、営業でも得意先にかわいがってもらっています。
そんな彼にも弱点がありました。

張切「僕、急な出番に弱いんスよ……。部活の時も、先輩の怪我で急にレギュラーになったことがあったんスけど、緊張し過ぎてミスしまくりだったんスよ」

 張切さんは、音無さんからバトンタッチを受けることになるとは思わず、急な大役に腰がひけてしまったそうです。
そして、いつものようにミスしてしまったら……。
そう思ううちに、どんどん焦燥感だけが高まったようです。

張切「すみませんでした……。仕事のことなら相談できるんスけど、これって僕の問題なんで、つい言い出しにくくて」
実直「そう思うのが自然だよ。そこに気づけなかったのは僕の責任だしね」

張切「今からでも、変わって欲しいのが本音ッス」
実直「うーん、それでも、やって欲しいと思っているんだよ。張切さんに」

張切「なんでなんスか? 僕の目から見ても、実直マネジャーと天辺さんの方がいいと思うんスよ」
実直「張切さんには言ってなかったけど、音無さんから引き継ぎを依頼されたからというだけで、張切さんに頼んでいるわけじゃないんだよ」

張切「そうなんスか? でも、僕、こんなッスよ」
実直「このプレゼン、多々木取締役も若手のチャンスになって欲しいって言ってたよね。チャンスもそうだけど、このプレゼン、張切さんのステップアップにつながると思うんだよ」

張切「……」
実直「急な代役かもしれないけど、前日ってわけじゃないし、気負わずにいこう。僕もそうだし、誰だって緊張するんだよ。音無さんも戻ってきたら、張切さんのサブに回るしね。張切さんは一人じゃないよ」

張切「……あ、ありがとうございます!」

 そこからは、張切さんの数々の失敗談の話になり、緊張するのは仕方ない、でも、みんなでサポートするという話で盛り上がったようです。

実直「……という感じでした」

野口「全て話してスッキリしたんでしょうね。実直マネジャーもうまく代役の動機付けを張切さんに伝えられたと思いますし、受け身のマネジャーではダメだってわかったでしょ?」
実直「そうですね。もう少し、周囲をきっちり見れるようにします。ここんところ、うまくいくことが多かったのもあって、僕自身、油断があったと思います」

野口「あとは、プレゼンに向けての資料作成ですね」
実直「これは天辺と2人である程度詰めています。新入社員の時に受けた野口先生のプレゼン研修の復習になりますが」

野口「お! 懐かしいですね。少し拝見……」

■模擬プレゼンでのチェック

 プレゼン資料は、実直マネジャーと天辺さんの合作だけあって、なかなかの出来です。

  • ヒアリングの内容に徹底的に答える内容
  • なぜ必要なのか? を簡潔に掘り下げている
  • 提案の理由、突っ込まれる前に自分で突っ込んで答えてしまう

 ゴールの設定を前半に持ってきて、それに対するなぜ? で構成されたプレゼン資料です。
詳しくは野口の研修で! という宣伝をしてもいいぐらいの感じですね!(宣伝ですよ!)

 あとは、プレゼンターである張切さんらしさで、聞き手の姿勢を”聞く姿勢”に持っていくだけですね。

野口「聞く姿勢に持っていくのは、どうするんですか?」
実直「張切さんの後輩キャラを活かそうかと思っています。参加者の中で最年少のプレゼンターになるようですしね」

 野口の中で、聞き手の姿勢づくりの極意はなんといっても、世間話です。
営業マンにとって世間話の重要性は、”仲良くなるきっかけ作り“だけではなく、「よし、この営業マンの話を聞いてみるか」というリラックスした関係を作ることです。
これは、みなさんもご存知ですが、いきなり仕事の話を切り出すと、お客様の目にクロージングに持って行きたいだけの営業マンに映ります。
世間話の効果は、そういった意味でのワンクッションであり、聞く姿勢を作る効果があります。

野口「ばっちりのようですね」
実直「やるだけのことは詰め込んだつもりです。あとは模擬プレゼンのあとに最終チェック、そして本番ですね」

野口「野口が次に営業3課へ来るのは1週間後ですし、その時に良い結果を聞けるのを楽しみにしていますよ」
実直「はい! がんばります!」

 まさに一丸となった営業3課。結果が楽しみです。
もうすぐ戦列復帰する音無さんもサポートに周りますし、これは期待できそうですね!

■そして結果は……

一週間後、久々の営業3課は……。

実直「野口先生、こんにちは!」

野口「実直マネジャー、その様子だと優勝ですか?」

実直「いや……実は、優勝できなかったんですよ……」

野口「その割に元気ですよね……」
花咲「こんにちは〜! 実は営業3課、特別賞もらったんですよ!」
野口「花咲さん、こんにちは! 特別賞ですか?」
花咲「実直さん、早く報告してくださいよ!」
実直「ええ……実は……」

 今回のプレゼン大会、予想通り、本当の若手で勝負したのは営業3課だけだったようです。
ほとんどの課が、実直マネジャーの先輩がプレゼンターでほぼ中堅といえる世代が中心だったとか。
それに圧倒された張切さんと音無さんは、掴みのトークと大学生協を中心とした募集手段であっと言わせたものの、残念ながら優勝ならず。

花咲「プレゼンが終わったあとに、多々木取締役がうちの課にきたんですよね! 『今回は残念だったけど、若手の育成に将来性がある』ということで、特別賞もらったんですよ!」
野口「取締役も粋ですね!」
実直「僕もびっくりしました! ポケットマネーですが賞金をいただきましたし!」

野口「おめでとう! なんですかね?」
張切「ただいまッス! 野口さん、優勝できなかったんスけど、特別賞もらったんスよ!」

野口「今、聞いてました! おめでとう!」
張切「ありがとうございます! いや〜、実直さんの差し入れが牛丼じゃなくて、デパ地下の高級焼肉弁当じゃなかったのが、敗因じゃないかと自分思ってるんスよね!」
実直「そこなのかよ……! とりあえず、今日は賞金もあるし、焼き肉だね」

花咲「天辺さんから、遅れるけど営業先から直接店に行くという連絡もありましたよ〜」

 結果は残念でしたが、張切さんもステップアップできたようですし、営業3課の評価もある程度他部署に認知されたようです。
実直マネジャーも今回の件で、相談はされるのを待っているだけではダメということにも経験を持って理解したようですし、収穫があったようですね。

 3週間後……。
今日は久々の営業3課。今日も元気にやっているんでしょうね。

花咲「あ・の・で・す・ね! 私が言っているのは、決まり事をすることだけなんですけど!」

 あらあら、花咲さんが誰かを注意しているようです……。
何があったのでしょうか?

(10話に続く……)