第10話 いつまでも初々しい気持ちで

■どんな仕事にも意味がある

 今日は久々の営業3課。今日も元気にやっているんでしょうね。

花咲「あ・の・で・す・ね! 私が言っているのは、決まり事をすることだけなんですけど!」

 あらあら、花咲さんが誰かを注意しているようです……。
何があったのでしょうか?

花咲「張切さん、最近、切り抜きしてませんよね? 音無さんも!」

張切「いや〜、最近、抱えている案件が多いんスよね」
音無「ぼ、ぼくもそうです!」
花咲「……仕事ですよね、これ」
張切「わかってるんスけどね、時間がなくて。ね? 音無さん」
音無「そそ、そうです。さ、最近は花咲さんに任せっきりで、も、申し訳ないです……」
花咲「申し訳ないと思っているなら、2人ともキチンとやってくださいよ!」

 花咲さん、競合の切り抜きを行わない音無さんと張切さんに怒っているようですね。

張切「僕、もう新人じゃないッスし。もう大体競合のスペースは把握してるスよ」
音無「ぼ、ぼくは、え、営業のスケジュールが、その」
花咲「……わかりました。ですが、新人の仕事ではありません。みなさんの営業が大事なのも、私はすごーく理解しています。ですが、どうしてもやりたくない、そうおっしゃるわけですよね」
張切「あ! 音無さん! そろそろアポの時間ですよ! 出ないと!」
音無「そ、そうだね、いい、いってきます!」
花咲「……」

 あ〜、2人とも、旗色が悪くなって出て行きましたね。
一人で切り抜きを始めた花咲さん。さすがに怒っていますね。今日の花咲さんの怒り方を見ると、今日昨日の話ではなさそうですね。
お、朝のミーティングを終えた実直マネジャーが戻ってきたようです。

実直「花咲さん、一人で切り抜き? 音無さんと張切さんは?」

花咲「……もう営業に出ました」

実直「どうしたの? 花咲さん、様子変だよ」

花咲「……なんでもないです」
実直「花咲さん、泣いてるよね。どうしたの?」

花咲「本当になんでもないです」
実直「花咲さん、泣いてるよね。どうしたの?」
花咲「実直さんは関係ないです」
実直「うーん。今度、ご飯おごるよ! だから、とりあえず落ち着いて話してみて」
花咲「……お気になさらないでください……私、大丈夫ですから」
実直「そ、そう」

 まったくダメな実直マネジャー……、これは教育ものですね。

天辺「実直マネジャー、ちょっと」
実直「う、うん」

 見るに見かねて、天辺さんが実直マネジャーを連れ出しました。
天辺さんはずっと資料を作っていたので、現状の報告をしたようです。

天辺「というわけだ」
実直「そうか。うーん、意味のない仕事だと思っているのかな」
天辺「どうしても地味に見えるんだろうな。わからんでもないけど」

実直「慣れなのかな〜」

■競合を知るということ

 競合を知るということを大事さ……。というわけで、実直マネジャーと打ち合わせです。

野口「今回の件……花咲さんの涙にしどろもどろになっていたことは見逃します」
実直「すみません……」
野口「さっそくですが、この競合の切り抜きをサボっている件、どう思いますか?」
実直「は、はい。2人とも、切り抜きから得られるものを過小評価しているのではないかと思っています」

 実直マネジャーの言うとおりなんですよね。
競合の切り抜きという作業そのものは、非常に地味です。
しかし! 切り抜きか得られるものは非常に大きいです。

  1. 現状のマーケット把握
    • 今、どのような業界に需要があるのか、どのエリアに需要があるのか
  2. 新しい企業の発掘
    • すでに出稿がある=求人広告に抵抗が少ないと考えられる新しい企業の発掘
      求人ニーズがある可能性が高いと考えられる新しい企業の発掘
  3. 自分が担当している顧客からの出稿確認(出稿把握)
    • 自分の担当企業が他社から出稿していないか

これらは書きだすとはっきりわかりますが、営業マンとして押さえるべきポイントですね。
競合他社がどの業界を狙っているのか、自分との目線の違いを感じるのもおもしろいですし、広告を通して競合の営業マンの人物像を考えるのもおもしろいかもしれません。

実直「切り抜きが新人の仕事ということを言ったみたいですが、そういう“慣れ”って怖いですよね」
野口「そうですね」
実直「音無さんも張切さんも、なんだかんで順調に営業活動が進んでいますし、そういう時期なのかもしれません」

■初心を忘れないことが熟練の近道

 新人の間、担当する顧客が少ないため、新規企業開拓に力を注ぐ時間と余裕があります。
切り抜きをしてチェックし、すぐ訪問するという営業がルーティンワーク化します。
このイメージが強く残っているんですよね。

 無さんや張切さんのように顧客を任されるようになって営業数字が順調な時は、担当し顧客でスケジュールが埋まることはよくあります。
営業していて一番楽しい時期ですね。そんな時に切り抜きなんて……と、初心を忘れ後回しにし、結局行わない。

 忙しい日々であれ、マーケット把握をしておくことは営業の幅を広げます。
マーケットの把握を怠り、ブランクを作ってしまうと……。もし、担当顧客だけで数字が不足した時、その時に急いで切り抜きを始めてもブランクが足を引っ張るのです。なぜ、この業界が熱いのか? その理由を知るには、常に業界のトレンドを把握しておくことが大事です。
付け焼き刃の知識では、お客様を満足させることはできません。

実直「彼らが帰ってきたら、初心を忘れていないか? ということを少し話します」
野口「営業に慣れてくるとどうしても……という事例ですからね」

実直「僕もありますし、うまく説明できると思います」
野口「あ、張切さんが戻ってきましたよ!」

 実直マネジャー、さっそく張切さんに声をかけていますね。
ん? あれは、花咲さん、どうしたんでしょう、深刻な顔して2人のところにまじりましたね。

張切「すみません! すぐに確認するッス!」
実直「なるべく早いほうがいいね」
張切「はいッス!」
実直「花咲さん、お手柄だったね」

 どうやら、切り抜きをしているときに競合で張切さんのお客様を発見、報告だそうです。
大慌ての張切さん、電話していますね。

張切「はい! ええ、すぐにお伺いいたします! 申し訳ないッス!」

 お客様は株式会社バツグンテック、張切さんとはリレーションも築けていましたが、築けているがゆえ、提案もなくなり、待ちの営業になっていたところに、競合の新人営業マンが懸命に話を聞き、提案してくれたので今回はそちらに頼んだ……というのが顛末のようです。

■初心だから見えることもある

 夕方のミーティングでは、実直マネジャーが音無さんと張切さんにきっちり説明したようです。

実直「今回の一件でわかったと思うけど、初心を忘れると見落としにつながるんだよ」
張切「はい……申し訳ないッス」
実直「音無さんも明日は我が身かもですね」
音無「は、はい……き、きちんと切り抜きします」
花咲「私にも感謝ですよね? ね、張切さん!」
張切「次からは僕もきちんとするっすよ!」
実直「切り抜きは新人がすることではないんだよ。常にマーケットを把握し続けることが、ニーズを見つける力になる。それが理想的な営業マンだと僕は思うんだよね」

 リレーションの構築はもちろん大事です。
しかし、今回のように「いつもは株式会社バツグンテックさんから、商談にきてくれという連絡がある」という状態に慣れてしまうと、どうしてもこちらからのアプローチが減ってしまいます。
そこに隙が生まれ、競合が介入するきっかけができたのでしょう。
今回の一件に関しては、花咲さんの発見が早く、早めのフォローができました。
これが誰も切り抜きをしていなくて、気づかなかったら……。
そう考えると恐ろしいですね。
何のための切り抜きなのか? 切り抜き自体は地味ですが、目的は大きなものです。それを実直マネジャーもうまく説明できたようで、本当によかったです。

 あ、先を歩いているのは実直マネジャーと花咲さんですね……何やら、花咲さんに激しく責め立てられているようです……。

花咲「実直さん、私に晩ご飯ごちそうするっていいましたよね?」
実直「えーっと、ちょっと記憶にないかも」

花咲「いいました! 私きちんと覚えていますし!」
実直「うーん、まぁ、いっか」
花咲「私、スペインバルがいいです!」

実直「僕はお店がわからないから、花咲さんの知ってるお店でいいよ」
花咲「こっちです! さ、行きましょ♪」

実直「う、うん……高いのは勘弁してね……」

 なんだかんだで丸く収まりましたね!
スペインバル……いいですね……。

(11話に続く……)