第14話 プライベートとビジネスの距離感

■3月に向けての課題確認のはずが……

 期末である3月に向け、目標の再認識、課題や問題などを確認と共有する場を野口と作りたいという連絡を受け、今日は営業3課にやってきました。

実直「野口先生、こんにちは!」

野口「こんにちは! 他のみなさんはもうミーティングルームですか?」

実直「ええ。今日はよろしくお願いします」

野口「本日は進行はどのような流れですか?」

実直「1月も終わり、2月に入ったわけですが、各個人の抱える課題や問題を洗い出し、共有し、その上で、期末に向けての最後の調整をどうするか……という感じです」

野口「達成ベースか未達成ベースかで、来期に向けての仕込みを始めるのか、目標へのすり合わせをするのか分かれますしね」

実直「そうですね。そこも踏まえて今日はお願いします」

 期末に向けて目標達成ベースできている営業3課。
モチベーションも高く、良い雰囲気でのミーティングが続きます。
音無さんからは新規開拓の際のモチベーションの保ち方、張切さんからは効果的なプレゼン手法、天辺さんからは既存顧客への新鮮味のある提案書の作り方についてなど、勢いのある営業3課らしいポジティブな質問が続きました。
色々ありましたが、成長を確認できるようで野口も嬉しいですね。

花咲「あの、野口先生、関係あるようで関係ないような質問なんですけど、良いですか?」

野口「ええ、私の答えられる範囲でしたら」
花咲「ありがとうございます! 早速なんですが……その前に」
天辺「ああ、あの件か……。オレなら大丈夫だ」
実直「あれ? 天辺は何か知ってるの?」

天辺「ああ、まぁな……」
花咲「別に天辺さんに対して、どうこう思っているわけじゃないんです。という前置きで」
野口「はい。花咲さん、どうぞ」
花咲「実は年末に友達と二人で忘年会をしていたんです。行ったお店でベリデリドリンコさんの課長をお見かけしまして……。もちろん、挨拶はしたんですが、どんな対応が良いのかわからなくなってしまって」

プライベートでお客様に会った時の対応ですね。詳しく質問するに至った経緯を聞きましょう。

■識のあるお客様とお店で遭遇……その時どうする?

 帰省している大学時代の友人と忘年会をしようということで、雑誌で日本酒が美味しい紹介されていた創作和食に食事へいった花咲さん。
和食と日本酒を楽しんでいると、少し離れたところから電話口でよく聞くしゃべり方と声を耳にし、よーく見てみると、天辺さんの取引先であるベリデリドリンコ株式会社の販促企画部課長の姿を発見しました。

花咲「ちょっとごめん。お客さんを見つけたから、挨拶だけしてこなきゃ。すぐ戻ってくるね」
友人「いいよ。愛もちゃんとお仕事してるんだね〜」

 友人と楽しんでいるプライベートではありますが、面識もある取引先……私も営業3課のメンバーとして、見て見ぬふりをするわけにもいかない! 今年のチームは頑張りがいのあるチームだし! と思い、挨拶に向かう花咲さん。

花咲「お世話になっております。アド・ナンデモ・エージェンシーの花咲です」
課長「ああ、天辺さんところの! こちらこそ、お世話になってます。わざわざご挨拶ありがとうございます」

 日本酒の話を少しし、席に戻ると友達から冷やかされ、忘年会の続きです。

花咲「で、ですね。ここからなんですよ」
実直「なんかあったの?」

花咲「お会計を済ませたところで、声をかけていただいたんです。『珍しい日本酒を出してもらって飲み比べしてるんです。お二人もいかがですか?』って」

 花咲さんの友人は人見知りですが、

  • 天辺さんの顧客
  •  
  • 新商品の街頭販売促進イベントでは毎回入稿がある
  •  
  • イベントの規模が大きいので、入稿額も必然的に大きい

 これらを考えると「(ごめん! ちょっとだけ!)」とお願いして同席してもらいました。

 同じように帰省している大学の友人という繋がりで忘年会をしていたこと、日本酒が好きだということを楽しく話してくださり、いい雰囲気でお酒をいただきました。
21時を過ぎ、友人にこれ以上迷惑をかけるわけにもいかず、お暇させていただくことに。

花咲「いろいろとごちそうさまでした。そろそろお暇させていただきます。ありがとうございました」
課長「こちらこそ、ちょっと強引にお誘いしてしまいまして」
花咲「いえいえ、日本酒、すごく美味しかったです」
課長「それはよかった。また、機会があれば一緒に日本酒を飲みましょう」
花咲「そうですね。本日はありがとうございました!」

花咲「……というわけだったんです」
野口「花咲さん、良い決断だったと思います。お友達にも感謝ですね」
花咲「そういっていただけると嬉しいです」
野口「お礼のメールはしましたか?」
花咲「そうですね。本日はありがとうございました!」
野口「言うことなしですね。あれ? 質問は?」
花咲「それが……」

■取引先からの“本当の”お誘い

花咲「先週、『次はいつにしましょうか』というメールが私のところにきたんです……」
実直「えー!」

花咲「私はてっきり社交辞令だと思ったんですけどね……うーん」
野口「確かにそれは考えますね」
花咲「天辺さんには日本酒をごちそうになった話は報告していて。今回の件を話すと『行ったほうがいい』って」
実直「天辺、そんなこと言ったの?」

天辺「ああ。大口のお客様だし、先方も花咲さんのことを悪く思っているわけではない。今後のことも考えると行ったほうがいい」
実直「それはおかしくないか。花咲さんはずっと我慢し続けるってことじゃないか」

花咲「あ、あの、その……」
野口「ストーーーップ! そこまで! 言い争っても仕方ないですし。今ある現実として考えましょう」
実直「……はい」

野口「花咲さんはどうしたいんですか?」
花咲「正直、気が進みません……。でも、会社のことを考えると……うーん」
野口「今はどうしていますか?」
花咲「返事を先延ばしにしています……」

 花咲さんが迷うのもわかります。女性である花咲さんが、男性であるお客様とお酒の席に同席する……。
セクハラ行為やそれに準ずることがないとは限りませんし。

 まず、今回の件をまとめます。

1. 花咲さんのプライベートでお客様を見つけ、挨拶した
プライベートな時間であれ、お客様にしっかり挨拶できたのは素晴らしいです。
目があったりしている状況で挨拶しなかったら? 相手は、少し嫌な気持ちになるかもしれませんよね。
2. 翌営業日にお礼のメールを伝えた
こちらも良いです。きちんとお礼を伝えて嫌がる人は少ないと思います。
ただ、会社のメールアドレスは社内SEが目を通している可能性もありますので、誤解を受けかねない記述はしないようにしましょう。
3. お誘いのメールがきた
こちらに関しても、自分の判断だけでなく、担当者の判断もあおいだのは良いです。
4. 天辺さんに相談したところ、行くべきだと言われた
こちらに関しては、花咲さんの意思を尊重すべきです。いやだと感じたら、セクハラうんぬんでなくても避けるべきです。

実直「では、どうすればいいんですか? ちょっと僕にはわかりません……」
花咲「私にも……」
野口「答えはありますよ。担当者や上長が代わりに同席すればいいんですよ」

■仕事の関係だからできること

 花咲さんだけで解決するような流れになりがちです。
しかし、よーく考えて下さい。

花咲さんとお誘いしているお客様の間に立っている人間は誰ですか?
花咲さんが困ってる時に助けるべき立場の人間は誰ですか?

前者は天辺さん、後者は実直マネジャーですよね。
彼らが代わりに同席したらいいんです!
同席しても何の不思議もないですしね。だって、大口のお客様ですし。

花咲「それじゃ、早速、『弊社天辺と実直が、ご一緒に日本酒を、とお申しております』というような形で返信しておきますね」

天辺「……仕方ない。オレのお客様だしな」
実直「日本酒の美味しいお店がいいんだよね。天辺知ってる?」
天辺「オレの友達が日本料理のお店をしている。そこにしよう」

 花咲さん、肩の荷が降りていい笑顔になりましたね。
期末に向けての計画も順調そうですし、営業3課にいい空気が流れているような気がします。
期末に向けて、がんばれ営業3課!

(15話に続く……)